荻野規子さんは「空色勾玉」でデビューし、勾玉シリーズを書き上げた小説家です。
勾玉シリーズもファンタジーですが、和風の世界観で描かれています。
今回紹介する「西の善き魔女」は、西洋風の世界を舞台としたファンタジー小説です。
5冊の本編と3冊の外伝で成り立っています。
5巻で一応のエンディングを迎えますが、様々な謎が残ったまま終わります。
外伝ではありますが、この8冊目が最終巻です。
この記事では1巻の簡単な内容と感想をお話しします。
なるべくネタバレにならないように書きますが、内容に踏み込んでいる部分がありますのでご注意ください。
あらすじ
文庫本の裏に書かれたあらすじはこうです。
舞踏会の日に渡された、母の形見の首飾り。その中央に燦然と輝く青い石は、証拠を女王の後継争いのまっただ中へと放り込んだ。出生の謎に戸惑いながら父の待つ荒野の天文台に戻った彼女を、さらなる衝撃が襲う――自らの手で大切なものを守るため、少女 フィリエルの未来を切りひらく冒険が今、はじまる!
引用元:西の善き魔女I(中公文庫)
主人公・フィリエルのシンデレラストーリー――のように見えますが、それほど簡単な話ではありません。
フィリエルの舞踏会デビュー
フィリエルは天文学者の父と、その弟子であるルーンと3人で天文台に暮らしています。
天文台はセラフィールドという名の荒野にぽつんと建っていました。
父であるディー博士もルーンも、どちらも生活や身なりに頓着しません。
年頃の女の子がそんな生活をしていることを気にして、近所に住む(といっても唯一無二のご近所さん)ホーリー家が面倒を見てくれます。
フィリエルもホーリーのおかみさんを実の母のように慕っていました。
天文台よりもホーリー家で過ごす時間の方が長いくらいです。
このおかみさんのおかげで、フィリエルはセラフィールドの近くにあるワレット村の学校に通えています。
おかみさんと村の友達のおかげで、女の子らしい感性を育みながら成長してきたフィリエル。
そんな彼女が楽しみにしてきたのが、女王生誕祝祭日に行われる舞踏会です。
舞踏会と聞くと貴族しか出席できない社交場をイメージしますが、これは少し違うようです。
もちろん貴族の偉い人達も出席しますが、15歳以上の村の子ども達も出席できるものでした。
セラフィールドやワレット村を治める領主・ルアルゴー伯爵の館で行われます。
領主館とも呼ばれていましたが、城といって差し支えない大きさの建物です。
飛燕城とも呼ばれています。
おかみさんが作ってくれた水色のガウンを着て舞踏会に行く予定でした。
星と博士にしか興味がない弟子・ルーン
博士と共に天文台にこもっているはずの少年・ルーンがホーリーの家にやって来ます。
彼は博士を盲目的に慕っていますが、博士の子どもではありません。
博士のところに来る前までは、旅芸人の一座にいました。
それを博士が引き取ることになったのです。
フィリエルと兄弟のように育ってきましたが、フィリエルと違って博士の研究にどっぷり漬かっています。
正確な年齢は分かりませんが、フィリエルとほとんど同じはず。
彼もまた舞踏会に出席しても良い年齢なのですが、そんなものより星の観測の方を重視していました。
その彼がわざわざ天文台を降りてきたのは、博士からの使いを果たすためでした。
「昨夜、博士からことづかったんだよ。今日は女王生誕祝祭日だから、ユーナにおめでとうをいいに行けって。だから、めんどうだけど朝一番に来たんだ」
引用元:西の善き魔女I(荻野規子)第一章 エディリーンの首飾り より
「ユーナ」とは、フィリエルの亡き母を博士が呼ぶときの名です。
彼は、博士からの誕生日の贈り物を渡してくれます。
フィリエルの誕生日は半年も前のことであって、今日ではありません。
自分の名を正しく呼ばない上に誕生日も忘れている父に呆れつつも、プレゼントを大人しく受け取ります。
その中身は、博士が買ったとは思えないほどの豪華な首飾りでした。
フィリエルの母の形見? の首飾り
フィリエルの父親は洒落っ気が全くない人です。
首飾りなんてものを買うお金の余裕があるなら、研究費につぎこんでしまいます。
その父親が宝石のついた首飾りを持っているのはとても奇妙でした。
預かったルーンも詳しいことは聞いていないようですが、母親の形見ではないかと言い出します。
フィリエルの母は幼い頃に亡くなっており、顔も見たことがありません。
ルーンは詳しく語ろうとしませんでした。
博士に直接聞くように勧められますが、今日は待ちに待った舞踏会の日です。
フィリエルは形見の品と思われる首飾りを身に着けて舞踏会へ赴きました。
この舞踏会の日から、フィリエルの日常は大きく変わってしまうことになります。
感想まとめ
自分がどんな存在なのか、父親が何をしているのか、フィリエルは全く知らずに生きてきました。
きっかけとなったのは首飾りと舞踏会でしたが、その出自からすると遅かれ早かれ、彼女は激動の渦に巻き込まれていたのでしょう。
天文台で起きたことを考えると、舞踏会に首飾りを身に着けていった彼女の判断は正しかったと言えます。
舞踏会で彼女の出自がわかりそうになった辺りから、グイグイとストーリーに引き込まれました。
主人公のフィリエルは15歳の女の子らしい強さと明るさ、そして弱さを持っています。
空色勾玉の狭也も強い子だったな、なんてことを思い出してしまいました。
ですが、舞台が西洋風の世界なので、勾玉シリーズのような古事記の香りがする物語を期待するとがっかりするかもしれません。
この作品から古き良き日本の香りはしませんが、代わりに海外の香りが漂っています。
海外で書かれたファンタジー小説を読んでいるような気分になりました。
荻野規子さんが和風ファンタジー以外も書ける小説家だとよく分かります。
ライトノベルのファンタジーとは違った重みのある小説です。
小説の書き方もとても勉強になります。
ハードカバー版もありますが、さくっと読める文庫版の方が手軽でした。
最終巻の8巻まで、記事にまとめていきますね。
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