「ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~(中村颯季)」を読みました。
タイトルに「とりかえ伝」とあるように、主人公と悪役の入れ替わりものです。
はじめに漫画から読み始めたので「ふーん、絵が綺麗ー」くらいの気持ちでいました。
ものすごく軽い気持ちでした。
試し読みで止めるくらいの気持ちだったのですよ。
読んでみたら想像の斜め上の主人公と展開にドはまりし、小説も一気読みしてしまいました。
いやもうこういう話、私、すんごく好きです。
今回はこの作品を紹介します。
「ふつつかな悪女ではございますが」とは
主人公の精神が、別人のものと入れ替えられてしまうところから始まります。
主人公は、皇太子から寵愛を一心に受ける黄 玲林。
美しく儚げな人で、刺繍や舞など様々な芸に秀でています。
「殿下の胡蝶」と呼ばれる玲林と自分の精神を入れ替えたのは、朱 慧月です。
慧月は玲林とは反対に、「雛宮のどぶねずみ」とさげすまれていました。
雛宮で最も慕われている玲林と
雛宮で最も嫌われている慧月の
二人の精神が慧月の手によって、乞巧節を境に入れ替えられてしまいます。
「悪女」と身体が入れ替わってしまった玲林が、何だかんだあって「悪女」らしく頑張りましょうと意気込んでみるお話です。
登場人物たちの家の特徴
舞台となっている宮には、五家の雛女が召し上げられています。
各家の特色と性格がそれぞれはっきりしていました。
1~2巻でメインに登場する三家はこんな特徴を持っています。
玄家…水を司る一族。冷淡で、非人道的な行為も平然とこなす者が多い。
引用元:ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~(中村颯季)
反面、特定の対象には強く執着することも。
黄家…土を司る一族。朴訥で実直、世話好きな者が多い。
朱家…火を司る一族。苛烈な性格で、派手好きな者が多い。
なお、皇太子は玄家の血を引いています。
1~2巻ではほぼ出てこなかった家もあったのですが、これは3~4巻で出てくるのかな?
※まだ読んでいません。
世話好きな人たちや、特定の対象に強く執着する人たちが、玲林のことを大切に想ってくれています。
つまりその分、大切な「玲林」を傷つけた人間に向けられる牙が鋭くなるのです。
見どころ
歯ぎしりしたくなるほどの悔しさ・もどかしさ
この入れ替わりのポイントは、玲林が、皇太子を含めた周囲の人たちから、強く、あつく、本気で慕われていることです。
乞巧節での入れ替わりの際に、玲林は慧月によって欄干から突き落とされました。
大切な、愛する玲林の身体を害した「慧月」のことを、彼らは許すことができません。
皇太子や玲林付きの女官は、激しい憎悪を「慧月」に向けてきます。
主人公・玲林は入れ替わりの事実を口にできない
玲林は、何らかの術によって自分の精神が入れ替えられてしまっていることを、どうにか周囲に伝えようとします。
ですが、入れ替わっていることを人に話そうとすると、声が出せなくなってしまうのです。
玲林には、口封じの術がかけられていました。
できる範囲で、自分が玲林であることを玲林付きの女官に伝えようとしますが、聞く耳を持ってくれません。
「お黙り、この性根の腐りきった悪女め」
引用元:ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~1巻(中村颯季)
玲林は、誰にも真実を告げることができないまま、「玲林」に危害を加えた罪で処刑されることになってしまいました。
自分のことを深く愛してくれている人たちから、自分のことを深く愛しているがゆえに、強く憎まれてしまいます。
入れ替わりで本当に困ったことになったのは…
精神が他人のものと入れ替わってしまう物語で、一番困ってしまうのは大抵主人公です。
入れ替わり犯は、主人公の身体を得たことで旨みを享受し、好き放題。
主人公は劣悪な環境に身を投じながらも、自分の身体を取り戻すために奮闘する。
こういった展開のものが多いです。
本作はこれらの定番とは少し違っていました。
何と言いますか……とにかく、主人公・玲林が強いです。
主人公が鬼つよ鋼メンタルの持ち主
玲林は決して、好戦的な性格ではありません。
天女のような見た目そのままに、おしとやかな口ぶりで、おしとやかな振る舞いをしています。
身体が朱 慧月となってからも変わりません、
おしとやかなんですけど、メンタルがものすごく強いんです。
玲林は、病弱(どころじゃない)身体を持っているために精神面がたくましく鍛えられています。
彼女をいじめる側に同情したくなるほどの強さ。
なんか……その……玲林様が、ごめんね……?
こんなことを思いながらも、玲林様の行いを見守りたくなってしまいます。
鋼メンタルの源
彼女の精神を一言で表すなら鋼メンタルです、間違いなく。
ただ精神が強靭なのではありません。
鈍感というのも違います。
玲林の身体は弱いです。
もし私が同じ身体を持っていたらきっと、始終床に伏せって、何もできずにいたでしょう。
玲林は、私たちが普段、当たり前に享受している事柄に感謝をして生きているのです。
何と無しに生きている私が当たり前に持っているもの──すぐに熱を出さない身体とか、走っても息が切れない身体とかを、玲林は持っていませんでした。
それでもたゆまぬ努力を続けて、強く生きています。
「死んでしまうまでは、生きているということでございます」
引用元:ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~1巻(中村颯季)
玲林の生き様を見ていると、自分の身を振り返って生活を改めたくなってきます。
運動嫌いの私ではありますが、実際、筋トレを始めて身体を作ることを意識するようになりました。
運動が嫌いだから、筋力がないから、というのは運動をしないことの言い訳にはならないと思えたのです。
熱いほどの友情
本作はどんな物語なのかと訊かれたら、「熱い友情物語」だと私は答えます。
情熱的で、激しい友情です。
憎んで憎んで憎んだ果てに全力でぶつかった先で、ただ雌雄を決するだけではありません。
尊く強く、美しいものがありました。
ここが一番大切なところではあるのですが、大切過ぎて、これ以上お話すると重大なネタバレとなってしまいそうです。
私からは控えておきます。
恋愛要素は控えめ
本作は友情ものだと思っています。
個人的には、恋愛要素は控えめなのかな、と感じました。
全くないのではありません。
恋愛要素も含まれています。
ですが、「Aとくっつくの!? Bとくっつくの!? どっちなのー!?」という思いより、
- 玲林と慧月の精神の入れ替わりはどうやって解消するとか
- 二人の入れ替わりに周りの人たちは気づけるの!? とか
- 慧月だと思って冷たく当たっていた人が本当は玲林だって知ったら
- あの人はいったいどうなるのよ! とか
こういったことにドキドキソワソワしてしまいました。
おわりに
- 愛され主人公と憎まれ悪役の精神が入れ替わる
- 病弱な身体の持ち主の主人公の精神はたくましい
- 入れ替わりに気付かない人たちは思いっきり主人公を憎んでくる
- 強く熱い友情物語
主人公が魅力的なお話は、やっぱり見ていて楽しいです。好き。
この入れ替わりの話は文庫版2巻で終わります。
このテンポでいくと、次の話も3,4巻で終わりそうなので、こちらも読んでみます。
あとこっちのお話もたぶん好きな気がするので、これも。
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