小野不由美著作の「残穢」。
2012年に新潮社より刊行され、2016年に実写映画化されました。
この作品を知ったのは、実写映画がきっかけです。
自分の誕生日付近で公開されていたのと、好きな俳優が出ていたから記憶に残っていたのです。
「ミステリーなら観よう」と思ったのですが…
ホラー!?
ホラー系には手を出しません。
怖そうなので。
このときも映画は観ませんでした。
もちろん、原作小説も読んでいません。
「一生観ることはないだろう」と思っていたのですが、ホラー好きの職場の同僚に勧められて手を出してしまいました。
「小説の方が怖くないかも」という彼女の言葉を信じ、先に小説を読みました。
そして、映画の方まで観てしまいました。
先に感想を簡単に言ってしまうと、こんな感じです。
- ホラー苦手だけど読めた!
- 本当にありそうで地味に怖い!
- じわじわ来る恐怖
映画の方は「ホラー映画としてのエンタメ性を優先してしまったのかな?」という印象でした。
賛否両論ある本作ですが、意見が分かれる理由と詳しい感想をお話ししていきます。
あらすじ
この家は、どこか可怪(おか)しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が……。だから、人が居着かないのか。
何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。
Amazon
かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢(けが)れ」となり、感染は拡大するというのだが──山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!
引用元Amazon
語り部である「私」は小説家を生業としています。
「部屋に何かがいるような気がする」
そんな内容の手紙が読者から届きました。
これがきっかけとなり、「私」はあのマンションに関わっていくことになります。
残穢の怖いところ
この小説で一番怖いのは、現実にありそうなところです。
全編がドキュメンタリー風に書かれているんですよね。
手紙を送ってくれた読者の名前を出すときに 仮に久保さんと呼んでおく
なんて言っています。
ここから
「実名を出すのは憚りがあるから、仮名で書く」
というニュアンスが感じられるんです。
他にも、マンションの名前を出すときなんかも、 久保さんが住んでいるマンションには、昨今の風潮に従い、国籍不明のややこしい名前が付いているが、ここでは単純に岡谷マンションと呼んでおく
と、ちょっと持って回ったような言い方をしています。
普通の小説だったらこんな書き方なんてしないですよね。
- 読者の<cite=”urn:isbn:978-4-10-124029-9″>久保さん</cite=”urn:isbn:978-4-10-124029-9″>
- <cite=”urn:isbn:978-4-10-124029-9″>久保さんが住んでいる<cite=”urn:isbn:978-4-10-124029-9″>岡谷マンション</cite=”urn:isbn:978-4-10-124029-9″></cite=”urn:isbn:978-4-10-124029-9″>
と、きっぱり言い切ってしまうはずです。
それをわざわざ「仮名」とか「呼んでおく」と書いているので、よりドキュメンタリーっぽく感じてしまいます。
作中では怪異について、慎重かつ細かく調べていきます。
関わりのある人たちに話を聞いていくのですが、その描き方もドキュメンタリーっぽいです。
読んでいる間は、住民が久保さん
や「私」と会話しているところではなく、住民がインタビュアーに向かって話しているテレビ番組を想像していました。
そこから、
- 本当にあったのかも?
- あの怪異とこの怪異が繋がっている?
- あの怪異の原因がこれだった?
と思わせてきます。
ここから恐怖がじわじわやってきます。
じわじわくるんです。
現実と一致する点が多い
語り部は私の生業は作家だ
と語っています。
作中で「私」の名前が明かされることはありませんでした。
ですが、残穢
自体が小説なので「この話は筆者が実際に体験したことを小説としてまとめたのかも?」と感じてしまいます。
私は小野不由美さんのことを今まで知らなかったのですが、著者のことを前からよく知っているなら、より強く感じたはずです。
「私」と小野不由美さんの経歴が一致している点がとても多いのです。
- 少女向けのライトノベルを書いていた
- あとがきで読者の怪談を募集していた
- 怪談を募集していたときの版は現在では絶版
更に、「私」の夫も小説家ですが、小野不由美さんご自身の旦那様(綾辻行人さん)も小説家です。
他にも、実在する人物と同姓同名の人物が登場します。
- 平岡夢明
- 福澤徹三
どちらもホラー小説家です。
作中でもホラー小説家として出てきます。
こんな前情報を持って読むと、小野不由美さんの体験記に読めてしまいますよね。
怪異の原因が判明する場面
残穢
の物語の中で怖いのは「怪異の原因が直接は分からない」ところです。
よくある話では、
「借りたばかりの自室で幽霊が見えたので調べてみたら、前の住人がそこで亡くなっていたとわかった」
で終わります。
ですが、残穢
ではそこで終わりません。
不動産会社に問い合わせても、マンションが建ってからそういうことは起きていない、というのです。
「じゃあ、どうして幽霊が出るの?」
「じゃあ、マンションが建つ前は?」
という疑問が沸いてきます。
そうやって過去へ遡って、怪異の原因を探っていくのです。
そんな中で久保さん
の遭遇した怪異の別に、いくつかの怪異現象が起きていたことがわかります。
はじめ、それらは別々の現象でした。
調査が進んでいくにつれ、全く違う現象だと思われていたものが繋がる瞬間があります。
読みながら、
「え、まさか…」
と思った瞬間に、ゾクリときます。
小説版と映画版の違い
私は先に小説を読みました。
本を勧めてくれた同僚が「映画も観て」と熱く推していたので、読後に映画を視聴しています。
彼女自身は小説を読んでおらず、映画を観ただけだそうです。
小説を読んだ私に「最後、変な終わり方してなかった?」と聞いてきました。
彼女は「映画の最後が変だったから、原作も変な終わり方をしたのだろうか」と気になっていたそうです。
小説自体は綺麗に終わっています。
映画の方は、確かに変な終わり方をしていました。
登場人物の設定が違う
原作と映画では、一部の登場人物の名前と設定が変わっています。
久保さん
→三十代から二十歳前後に
→編集プロダクションのライターから女子大生に- 平岡夢明
→平岡芳明に改名 - 福澤徹三
→三澤徹夫に改名
→小説家から心霊マニアの会社員に
平岡夢明さんや福澤徹三さんは実在する人物なので、映画で名前や設定が変わるのは仕方ないかな、と。
メインである久保さん
の年齢が若くなっているのも、小説が実写化するとよくあることなので、気に留めていませんでした。
問題なのは終わりごろのシーンです。
話の構成が違う
※重大なネタバレを含むことになるので細かい話は控えます。
映画の時間内で収めるために、一部の説明が削られていました。
そのせいで映画を観ているだけだと理解できない箇所が出てしまいましたが、概ね想像していた通りでした。
映画は、小説で読んでいたときに想像していたものを、そのままに実写にしてくれています。
竹内結子さんのナレーションも、想像していたままでした。
最後だけは「あー、映画だなぁ」なんて思ってしまいましたが。
映画の演出としてなのか、話の構成がちょっと変わっていました。
オリジナルのシーンも入っています。
より「ホラー映画っぽく」なっていました。
フィクションとノンフィクションの境界線が曖昧な作風だったのに、最後で急にフィクションの色が強くなっていたんですよね。
そこだけちょっと違和感があります。
でも、それ以外は小説のままでした。
単品で観るとちょっと変な感じがしますが、原作を読んだ後に観ると面白い映画です。
まとめ
残穢
にハッキリした、わかりやすい恐怖はありません。
- たくさんの幽霊や化け物が出てきて、襲い掛かってくる
- 登場人物たちが一歩間違えたら死んでしまう
こういった、ハラハラドキドキのホラーが好きな人にとってはつまらない小説です。
この小説がおすすめなのはむしろ、
- ホラーよりミステリーが好き
- 幽霊はあまり信じていない
といった人ではないでしょうか。
映画は映画で面白かったですが、できたら小説を読んだ後に観て欲しいです。
映画を先に観て「あれ?」と思った方は、小説を読んでみてください。
疑問に思ったことは大体、小説に答えが書いてあります。
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