転生ものや悪役令嬢系の物語が好きで、見つけるとすぐに読んでしまう日々を過ごすようになって早数年。
どこかで見たことがありそうなはずなのに見たことがなかった物語に出会いました。
「モブどれ」です。
作者である岡崎マサムネ先生が本作を「モブどれ」と呼んでいらっしゃったので、本記事でもこちらの名称を使用してお話ししていきます。
正式タイトルは「モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う」です。
タイトルに気になる要素が山盛り!
「モブ同然の悪役令嬢は」この辺りまではよく見かけます。
モブが主役になる話も悪役令嬢が主役になる話も、モブの悪役令嬢が主役になる話も、昨今では珍しくありません。
気になってくるのは次からです。
「男装して」
「攻略対象の座を狙う」
です。
男装して?
攻略対象の座を狙う??
いや、どうしてそうなるの!?
男装するにしても攻略対象の座を狙うっていう発想にはならないでしょう。
今回は、「モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う(著:岡崎マサムネ)」を紹介します。
「モブどれ」とは
正式タイトルの通り、本作では主人公の「エリザベス・バートン」が男装した上でヒロインを攻略しようとする物語です。
エリザベスは7歳のときにピーマンを食べたショックで前世の記憶を取り戻しました。
ピーマンです、ピーマン。
ここからもう好き
記憶を取り戻したエリザベスはまず、自分の前世の記憶が薄いことにショックを受けます。
ですが前世のことをほとんど覚えていなかったおかげで前世の記憶が流れ込んだ後も脳はパンクせずに済みました。
エリザベスは自分が乙女ゲームに転生したことに気づきます。
ゲームの中の「エリザベス・バートン」の立ち位置
私が転生したのは、乙女ゲーム「Royal LOVERS」の、悪役令嬢……というのもおこがましい、ほぼモブ同然のキャラクターだった。
モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う(1巻p.9より)
エリザベスは、ゲームの攻略対象の一人である「ロベルト(第二王子)」の婚約者でした。
しかもロベルトは攻略対象者たちの中でも最も「チョロい」ことで有名なキャラクターでした。
「意識しなくてもぐんぐん好感度が上がるのだ(p.10)」そうで、「主人公が普通にストーリーを進めていけば、まず間違いなく我が婚約者殿のルートに入るだろう」と言うほどです。
婚約破棄もできたら良いのですが、相手は第二王子。
バートン家の信用にかかわる問題になるのでそれもできない状況です。
エリザベスが決めた方針
エリザベスは悩みます。
婚約破棄はできないし、だからといってそのままストーリー通りにいけば自分は恐らく行かず後家にとなってしまう。
サブキャラの「エリザベス・バートン」よりも、主人公と会ったばかりの攻略対象者たちの方が主人公に、よほど酷い扱いをしていた。
それなのに彼らはイケメン攻略対象なので、主人公と結ばれたらハッピーエンドが約束されている。
……自分の置かれた理不尽なだんだんと腹が立ってきたエリザベスは天啓を得ます。
そうだ。
モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う(1巻p.12より)
私も攻略対象になればよいのだ。
「モブどれ」の魅力
何度読んでも「どうしてそうなった!?」と言いたくなるような、「幸せになるためにヒロインを攻略されよう」という発想。
それも、ヒロイン「を」攻略するのではなく、ヒロイン「に」攻略されようとしています。
既存の攻略対象者たちを上回るほど魅力的な人になって、ヒロインに攻略されようとしているのです。
ただヒロインを口説くよりも難しいのでは
本作は一人称視点で語られています。
文字数も濃いです。
2023年5月29日時点で88万字を超える作品となっています(※小説家になろう版参照)。
語り口が軽快といいますか、エリザベス・バートンの「細かいことはあまり考えない」というようなスタンスが表れているためか、さくさくと読み進めることができます。
真顔で突き進んでいくエリザベスの姿が目に浮かぶようでした。
そんな「モブどれ」の魅力ポイントはこちらです。
- エリザベスの男装が良い
- エリザベスのキャラが良い
- サブキャラも良い
エリザベスの男装が良い(説得力のある男装)
主人公と結ばれたらハッピーエンドが確約されるなら、自分がその座を奪ってしまえばいいという発想に落ち着いたエリザベス。
本作に魅力を感じた要素の一つに「エリザベスの男装に説得力がある」ことが挙げられます。
エリザベスは、元から男っぽい顔だった、男っぽい体つきだった、ということはなかったようです。
自身の顔についてエリザベスは、下記のように述べています。
顔は塩顔でややイケメンよりの、フツメン。だが薄い分には足せばいい。
モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う(1巻p.14)
不足しているなら足せば良い、という考え方が好きです。
この後、エリザベスはトレーニングを始め、食事メニューを変え、舞台メイクを研究して「イケメンを作って」いきます。
イケメンは作れる。
モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う(1巻p.20)
これ、エリザベスの名言の一つだと私は思っています
初めからイケメンに生まれたのではないのです。
エリザベスはイケメンを「作った」のです。
読んでいると不思議なことに、自分もやればイケメンになれるのでは、とちょっと思ってしまいます。
(実際、筋トレを始めましたし男装コスプレ用のメイクも調べました)
エリザベスのキャラが良い(ついていきます、エリザベス姐さん)
本作に登場するキャラクターには魅力的な人物がたくさん登場します。
攻略対象であるメンズはもちろん、ヒロインやサブキャラクターたちまで濃いです。
中でも最も魅力を感じたのは、主人公であるエリザベス・バートン。
彼女の目的は「ヒロインに攻略されることによって、ハッピーエンドを手に入れること」です。
自分の幸せのためにヒロインを利用しているとも言えます。
大切な人を守ろうとする気持ちを持っていますが、一番大切なのは自分です。
我が身に危険が及ばない範囲で他の人達も守ろうという気持ちでいます。
ドライな人です。釣った魚に餌をやらないタイプです。
思わず「ひでぇや」と言ってしまいたくなるようなところもありました。
それなのに、読んでいるとそんなエリザベス・バートンのことが大好きになってしまうのです。
「自分が危険にならない範囲なら助ける」というスタンスでいますが、エリザベス自身の強さが相当なものなので、ほとんどの事態において彼女は「自分に危険は及ばない」と判断しています。
結果として、エリザベスは色んな人を助けてくれるのです。
酷いところもありますし、ドライですし、「この人、いつか女性に刺されるのでは」と心配になることもありますが、好きになってしまう人でした。
サブキャラも良い(脇役すらも濃い)
先ほど、ヒロインやサブキャラクターたちまで濃いというお話をしました。
攻略対象者たちはこのような感じ(小説書籍1巻の帯より引用)です。
- 美麗腹黒王太子
- 小動物系義弟
- ツンデレ同級生
- 舎弟気質の婚約者
メンズはかっこいいです。
いえ、かっこいいといいますか、可愛いです。
それも、かっこいいと可愛いと可哀想が素晴らしいバランスで成り立っている男性メンバーでした。
こちらにつきましては別記事でまとめています。
今回はサブキャラについてお話しします。
攻略対象者ではないネームドキャラクターたちです。
- 「魅惑のぷにぷにボディ」を持ったお兄様
- 鬼軍曹からのしごきを受けたいグリード教官
- 気配を絶つことに長けた近衛騎士マーティン
- リリア(ヒロイン)
お兄様(フレデリック・バートン)
作中で一番好きなのはエリザベスのお兄様です。
エリザベスも大好きなお兄様。
エリザベスが「イケメンを作る」べく行動を始めたばかりの頃、彼女の行動は「奇行」として父親にやんわりと注意されました。
幼い娘がいきなり髪を切ったり剣の練習をしたりを始めたらそれは心配になります。
でもエリザベスにとっては必要なことなのでやめることはできません。
そんなときに彼女をフォローしてくれたのはお兄様でした。
父親に頭を下げてエリザベスの「やりたいこと」を守ってくれます。
どんなときでもエリザベスを信じてくれて、どんなときでも支えてくれる存在です。
お兄様は「魅惑のマシュマロボディ」をお持ちでした。
そんなボディも含めてお兄様が大好きです。
グリード教官
剣の練習を重ね、師範代となるほどの力を認められたエリザベスは教官として、騎士団候補生たちに指導をすることになりました。
グリード教官は、エリザベスを教官として誘った人です。
ピッチピチの黒いインナーを着た、ムキムキ体型の、ちょっと柄は悪めな人でした。
この人の出番はそれほど多くはありません。
多くはないのにしっかり記憶に残るくらい濃いです。
鬼軍曹を意識して指導するエリザベスの前に、嬉しそうな様子を見せながら、候補生たちと共に訓練に励んでくれます(グリード以外の教官たちも喜んで一緒に訓練を受けていた模様)。
わかりやすいミスをして叱られ待ちをしているガタイのいい男性の姿に私の心は打ち抜かれました。
マーティン・レンブラント
個人的な印象ではありますが、マーティンはサブキャラクターの中でも群を抜いて人気があると思っています。
2巻までの書籍ではまだほとんど登場していませんが、Web版の番外で彼が主役の話が書かれています。
マーティンは国王や王妃、王太子の護衛を務める部隊の一人です。
マーティンと初めて会ったときにはエリザベスにはかなりの強さ(ゴリラの方が可愛いレベル)となっていましたが、彼の接近に気づくことができませんでした。
王太子からの呼び出しはマーティンを通じて行われます。
初回で気配を察知できなかったことがエリザベスの対抗心に火をつけてしまったようで、マーティンが接近する前にエリザベスが背後を取ることを狙っていきます。
互いに気配を消し、相手の背後を取ることを狙って近づいていくような関係になりました。この人たち、暗殺者か何かなのかな。
また、マーティンと絡んでいるときのエリザベスが男子小学生のようになるのも好きなところです。
エリザベスはとても楽しそうですが、マーティンはとても可哀想です。愛おしいです。
リリア(ヒロイン)
乙女ゲーム「Royal LOVERS」の主人公であるリリアは、書籍の2巻で登場します。
彼女が登場するまで、どんな子が来るのだろうとドキドキしていました。
エリザベス・バートンがアレなので、普通の子では太刀打ちできません。
そんな心配なんて杞憂で終わるくらい、この子もしっかり濃い子でした。
サブキャラクターたちまで濃い物語ですものね、メイン登場人物であるヒロインが薄い子のはずがありませんでした。
彼女が登場するまでの間に、読んでいる私には応援したくなる子がたくさんできました。
舎弟気質の婚約者を応援したいし、ツンデレ同級生も可愛い。
王太子も思わず「頑張って」といいたくなるような人ですし、義弟は健気だしいい子だし可愛いのです。
ヒロインなんて出る幕はないわ、くらいの気持ちもあったかもしれません。
そんなことはありませんでした。
めちゃくちゃ出る幕がありますし、応援しました。いまも応援しています。
なお、本作は男装した主人公がヒロインに自分を攻略させることを目的としています。
エリザベスは実名でそのまま学園に通っていますし、生徒や教師にも性別を偽ってはいません。
ただ本人の嗜好で男子用の制服を着て、男子のように振る舞っているだけです。
このため、学園に通うほとんどの生徒はエリザベスが女性であることを知っています。
知らないのは一部の生徒と2年生で転校してきたヒロイン・リリアだけです。
相手が女性だとは知らずに、エリザベスを異性だと思ってかかわっていきます。
書籍版2巻で知ることになるのですが――…………すーごい好きです。以上です。これ以上は何も言えません。
おわりに
- エリザベスの潔さと格好良さに惚れる
- 攻略対象たちの可愛さを慈しむ
- サブキャラたちの濃さを楽しむ
Webでも読めます。
Webを読んで気に入ったら、書籍版にも手を出してほしいです。
特にダンスパーティの挿絵が良いです。これを絵で見たかったというシーンがしっかり描き起こされています。
本編はまだ続いていますが、2巻までの範囲で一区切りがついています。
ちなみに、ピッコマではコミカライズの先行独占配信がされているようです。
漫画版も絶対買います。
マーティンとグリード教官を見たいです。
余談ですが、攻略対象者のメンズの中で私が一番好きなのはロベルト(エリザベスの婚約者)くんです。
素直で思い込み激しめな君が好きだよ。
おまけ
書籍化はされていませんが、同著者(岡崎マサムネ先生)による下記のお話も楽しかったです!
- 当て馬ヒロインは今日も「カワイイ」を突き進む!(小説家になろう、カクヨム)
- コスプレイヤー、江戸に行く(小説家になろう、カクヨム)
- 時をかける貴之くんと別に時をかけないゆうひちゃん(小説家になろう)
当て馬ヒロインは今日も「カワイイ」を突き進む!
主人公・メリッサベルは悪役令嬢モノの小説の当て馬ヒロインに転生した子です。
タイトルとあらすじを読んだときに想像した内容の3倍くらい自己肯定感が強くてハチャメチャな子でした。
読んでいてすごく元気になりました。
小説家になろうで「当て馬ヒロインは今日も『カワイイ』を突き進む!」を読む
コスプレイヤー、江戸に行く
イベント帰りのコスプレイヤーが江戸時代にタイムスリップしてしまう短編です。
あらすじを書きながら「どういうこと?」って思ってしまうのに、内容は本当にこの通りだし、読んでいるとしっかり面白いのが岡崎先生の物語の魅力だと思っています。
主人公の子はさっぱりしているしメンタル強いしで、読んでいて安心感があります。
あと、こちらを読んで、「そんな気はしていたけど、先生、コスプレの経験がおありだな…?」という想いを深めました。
時をかける貴之くんと別に時をかけないゆうひちゃん
こちらもタイトルの通り、タイムリープを繰り返している貴之くんとタイムリープはしていないゆうひちゃんの短編です。
タイムリープや回帰ものは大好きで色んな作品を読んできましたが、「そんなことある?」と笑ってしまいたくなる言葉の連続でした。
一周目からしばらくの間の貴之くんの姿を見てみたいです。
小説家になろうで「時をかける貴之くんと別に時をかけないゆうひちゃん」
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